朝寝髪われは梳らじ愛しき君が手枕触れてしものを
読み:あさいかみわれはけづらじうつくしききみがたまくらふれてしものを
*読みについては異説アリ。
あさいかみ→あさねかみ
うつくしき→うるわしき
作者・出典:詠み人しらず・「万葉集」巻11・2578
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今回は、万葉集から。古代の歌です。
難しい歌ではなく、特に音韻(おんいん=音とリズム)から
解析していく必要もないですね。
あえて言えば、イ音が多く、
それが繊細な感情の動きを喚起しています。
また、結句、「ふれてしものを」→「・・・」という余韻があって、
味わい深い。
意味的には、
・梳らじ(けづらじ)=髪をくしけずらない、ブローしない
・愛しき(うつくしき)=いとしい
・手枕(たまくら)=腕まくら
この3つを押さえておけば、大丈夫と思われます。
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当時は通い婚でしたからね。夫婦か否かを問わず、
男が女のところへ通い、朝帰りしていく、と。
現代では、「朝帰り」は離婚のモトっぽい語感ですが、
そういう習俗であったということで。
意味をまとめると、
(昨晩)愛し合った貴方が帰ってしまった。
いとしい貴方が触れた髪だから、乱れてはいても、
私は梳かしません…。
ということですな。
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僕が驚くのは、歌の出来云々ではなく、次の2点です。
- 歌が詠まれた当時と、民族も国も王朝も連続している!現代の
僕らが読んでも(少しの予備知識を足せば)、簡単に読めてしまうこと - 読めるだけではなく、共感できること(ハゲドウ)
この2点です。
これは世界史上、類例のないことですよ。
ほぼ1300年前の、無名の女性に詠まれた歌が、
現代人でも読めて、その心情に共感できる。という驚愕の事実。
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「類例がない」と書きました。
いやいや、「中国は4千年だぞ!」とか「韓国半万年」(笑)とか、
いろいろ声が聞こえてきそうです。
でもね、
意外に勘違いしている人が多いのですが、
日本以外の国で「◯千年」って、ほとんど意味がないんですよ。
たとえば、今の中華民族は共産党政権=漢民族です。
台湾も漢民族ですね。
しかし、中華人民共和国の建国から、いまだ70年足らず。
辛亥革命(1911年)を基準にしても100年ちょっとです。
その前?
・その前は「清」=満州族
・その前の前は「明」=漢民族
・その前の前の前は、「元」=モンゴル族
ということで、支配王朝がころころ変わっているだけでなく、
民族も入れ替わっています。
ゆえに、「中国4千年」って、ヨーロッパ何千年とか、
アフリカ何千年、と言っているのと同じことで。
ある大陸に文明が続いていましたよーって意味にとるしかないんですが、
それってほとんど意味がないことですね。
王家の古さ・連続性ということでは大英帝国がありますが、
こちらも王朝自体ははころころ変わっていますし、
11世紀にはノルマン人に支配されたりしてます(ノルマン・コンクエスト)。
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そういうわけで、僕ら日本人は、
こういった大きなアドバンテージを生まれつき持っている幸せな民族なのだ、
ということを心にとどめておきたいものです。
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